【僕と彼女と彼女の生きる道】再放送・第1話
#1 離婚の朝
新築のおしゃれなマンション。小柳徹朗(草なぎ剛)はいつもの朝のようにダイニングテーブルで新聞を読みながらココアを飲んでいた。
「話があるんだけど…」
洗濯をおえた妻の可奈子(りょう)が静かにきりだした。
「離婚してください」
「朝から冗談、やめてくれよ」
しかし加奈子が本気と気づいて、徹朗は動揺した。
「とにかくなるべく早く帰ってくるから、ちゃんと話そう」
「こんな時に会社行くの?」
それでも徹朗は逃げるように家を出た。
都市銀行の法人営業部。それが徹朗の職場だ。
2歳年上ながらシングルの先輩、宮林功二(東 幹久)、部下の坪井マミ(山口紗弥加)と岸本肇(要 潤)、そして上司の井上啓一(小日向文世)が同僚だ。
「今夜、得意先の宴席に出てくれないか?」
一瞬ためらったが、仕事第一の徹朗は断らなかった。だから帰宅は遅くなった。
「ただいま」
部屋を明るくして驚いた。可奈子のものすべてが消えていた。もちろん本人も。
翌朝、7歳になる一人娘・凛がいることに気づいた。
「なんでいるんだよ!」
可奈子は一人娘の凛だけ残していったのだ。
「お母さんは旅行に出かけたんだ。急いで支度しなさい」
そうは言ってみたが、家の中のことはすべて可奈子任せだったため、着替えだけでもひと苦労。娘と2人きりの朝食は気まずい。
「お母さん、いつ帰ってくるんですか?」
小学生らしからぬ他人行儀だった。徹朗は、凛のことがよくわからない自分に気づいた。徹朗の返事はその場しのぎで、トイレにいきたがる凛を急かして、徹朗は家を飛びだした。
会社に着くと、
「可奈ちゃん、出ていったって?」
宮林からいきなり聞かれて徹朗は息をのんだ。可奈子から電話がかかってきたという。
「パリへ行くらしい。子供はお前に育ててほしいって」
まるで事務連絡だ。
「ふざけてる!」
いったい可奈子は何が不満なんだ。徹朗には離婚の理由がまったく思い当たらなかった。
「ただいま」
徹朗がコンビニ弁当を下げて帰宅すると、トイレから見知らぬ女が出てきた。
「凛ちゃんのお父さんですか?」
凛に英語を教えてくれている家庭教師の北島ゆら(小雪)だ。
「奥様、今日はどうされたのですか?」
「旅行なんです」
本当のことを言うわけにはいかない。凛は少し元気がなかったらしいが、ゆらは何事も気づくことなく帰っていった。
徹朗がホッとしたのも束の間、今度は可奈子の母親、大山美奈子(長山藍子)がやって来た。
「何が原因なの?」
「まったくわからなくて」
そう答えるしかない。
「凛ちゃんの面倒みましょうか?」
願ってもない申し出に徹朗は内心しめたと喜んだが、美奈子はすぐに考えを改めた。
「やっぱり実の父親と暮らすのが一番よね」
「も、もちろんです」
徹朗は良き父親を装った。
その後徹朗は、美奈子の家にいかないかという話を凛にすると、凛は涙を流した。
「あ、この話はもういいから」
徹朗は、美奈子の家の近くに転校させようと考えていたのだ。
29歳にして念願のマイホームを建てた。夏には家族でハワイにも行った。離婚の原因がわからない苛立ちはいずれ凛に向けられた。
「早く寝なさいって言っただろ」
「ごめんなさい」
しばらくすると、徹朗はようやく可奈子を見つけた。
「どうして離婚したいんだ?」
「本当にわからないの?」
たったそれだけのやりとりで可奈子は徹朗の前からタクシーで走り去った。
徹朗は凛の担任教師の石田(浅野和之)から呼びだされた。凛が毎日忘れ物をするようになったという。
「奥様、どうかされたんですか?」
徹朗は屈辱をグッとこらえた。
休みは朝からたまりにたまった家事に悪戦苦闘することになった。洗濯機すら解説書がないと動かせない。可奈子がいないと何がどこにあるのか皆目わからない。
徹朗の苛立ちはつのるばかり。だから凛のたどたどしいハーモニカについ怒鳴ってしまった。
「うるさいんだよ!」
その後、仕事中に凛からひっきりなしにケータイがかかってくるようになった。
「まだ仕事だと言ってるだろ!」
凛の身の上に何が起こったかも知らずに─。
引用:番組HPより