【僕と彼女と彼女の生きる道】再放送・第8話
#8 凛を返せ!
信用金庫への再就職話は流れてしまった。徹朗(草なぎ剛)はハローワークに通うが、残業なしという条件にあう仕事はなかなか見つからない。
「まいったよ」
徹朗が沈んだ声をもらすと、ゆら(小雪)はさりげなくつぶやいた。
「いいですよ。パニックの時、かけてください。電話」
「私、好きな人がいる」
その気持ちを勝亦(大森南朋)に打ち明けた。
「俺、まだおりる気ないから」
それが勝亦の返事だった。
下校中の凛(美山加恋)を可奈子(りょう)が待っていた。
「凛」「お母さん」
胸に飛びこんできた凛を可奈子はしっかり抱きしめた。
「ちゃんとごはん、食べてる?」
凛が徹朗の買ってくる弁当や出前ですませていると話すと、可奈子の表情はくもった。
「できるだけ早く、一緒に暮らせるようにするからね」
可奈子は凛がのぞかせた戸惑いの顔を見のがした。
スーパーで買い物をしていたゆらは、ふいに声をかけられた。マミ(山口紗弥加)だった。
「徹朗さんのお知り合いのかたですよね」
あの居酒屋以来だ。マミがこれから徹朗のマンションを訪れると知って、ゆらは動揺した。
マミが徹朗に思いを寄せていることを感じとったからだ。帰宅してからも、ゆらの心は鎮まらなかった。
じつはマミは宮林(東幹久)、岸本(要潤)と一緒だった。
「どお?新しい部長は」
岸本は合わないらしいが、うまくハマった宮林は課長に昇進した。
「おまえは信用金庫にいったら、いきなり部長になれるんじゃないの?」
「まさか」
徹朗は再就職の話がなくなったとは言いだせなかった。酔いつぶれた宮林を残して、マミと岸本は先にマンションを出た。
「凛ちゃんには勝てないわね」
帰りの夜道、マミはさびしそうにつぶやいた。
「お父さん、元気がないんだ」
凛は子供心ながら徹朗の変化に気づいていた。
「今度一緒に遊園地、行く?」
ゆらは気分転換にと誘った。
「3人がいい。凛とお父さんとお母さんで」
ゆらは心のどこかで自分の名前が出るものと思っていたからショックを受けた。
「お母さんに会ったの?」
凛はうなずいた。
「迎えにくるって」
ゆらはさらに大きなショックに打ちのめされた。
その頃、可奈子から連絡を受けた徹朗は、彼女が宿泊しているホテルの一室を訪れていた。
「パリから帰ってたんだ」
可奈子は美術品の鑑定や買いつけをするキュレーターとして、順調なスタートをきっていた。
「だからこれからは私が凛と暮らす」
「ちょっと待てよ」
可奈子は家を出ていくときに、凛を愛していないとはっきり口にした。
「落ちついたら迎えにくるつもりだったわよ」
「凛は渡せない。勝手に会うのもやめてくれ」
2人とも一歩も引き下がらなかった。
徹朗が帰宅すると、凛はゆらに勉強をみてもらっていた。
「どうしてお母さんに会ってたことを話さなかったんだ」
「3人一緒がいい」
そう言うなり凛は子供部屋に閉じこもった。初めて目の当たりにする反抗的な態度に徹朗はうろたえた。
「凛は母親のほうがいいのかな」
弱気になる徹朗に、ゆらはまず離婚と仕事のことをきちんと説明すべきだと勧めた。
「凛ちゃんはお父さんとお母さん、どっちかを選ぶことなんて、できないんだと思います」
徹朗はまず職探しのことを凛に話した。
「お父さん、元気だすし、仕事が見つかったら料理もつくるから」
凛は返事こそしなかったが、理解してくれたようだ。
「お父さんとお母さんは夫婦じゃなくなったんだ。もう仲良くできないんだ。だから3人一緒に住むことはできない」
凛はグッとこぶしを握りしめたまま、顔を上げようとしなかった。翌朝になっても凛は口をきこうとしない。
「気をつけていくんだぞ」
やはり凛は黙ったまま学校へむかった。
可奈子の部屋に美奈子(長山藍子)がやってきた。
「自分が何をしたか、わかってるの!」
いきなり美奈子は可奈子の頬を打ちすえた。
「ごめんなさい。でも今は私、凛と暮らしたい」
可奈子は泣きながら訴えた。
「たとえわずかな間でも、凛と離れちゃいけなかったのよ。今ごろ、気づくなんて母親失格ってわかってる」
もう美奈子はわが娘を責めることはできなかった。
「ウチに帰っていらっしゃい」
「お母さん」
徹朗は凛の担任の石田(浅野和之)から呼びだされた。
「本当に凛がそんなことを!」
友達からバッグを取り上げたという。母親の手作りバッグだった。
「今日は叱らずにそっとしておいてあげてください」
凛は教室に1人残っていた。
「帰ろう」
夕暮れ迫る帰り道、「昨日の話、わかってくれたのか?」
凛は悲しみをこらえてうなずいた。「ごめんな、凛」
徹朗はそれだけ言うのがやっとだった。
その夜、徹朗はある決意を固めて、ゆらのマンションを訪ねた─。
引用:番組HPより