【僕と彼女と彼女の生きる道】再放送・第3話
#3 悲しき抱擁
徹朗(草なぎ剛)は小学校の音楽会が終わってから、凛(美山加恋)を美奈子(長山藍子)に預かってもらうことにした。
「ありがとうございます」
徹朗の前ではニコリともしなかったが、うれしくてすぐにゆら(小雪)に知らせた。
「よかったね」
内心ゆらは複雑だった。すでに家庭教師はやめたし、徹朗からは口出ししないでほしいとクギを刺されている。いつまでも関わりつづけるわけにいかない。
徹朗は可奈子が送ってきた離婚届にハンコを押して提出した。
「えっ!」
さすがに宮林(東幹久)は驚きを隠さなかった。仲人をしてくれた上司の井上(小日向文世)にも報告した。
「お前に対する評価は離婚ぐらいじゃ変わらない」
その一言で徹朗はひとまず胸をなでおろした。だからマミ(山口紗弥加)から相談事をもちかけられて、こう返事した。
「来週以降ならゆっくり聞くよ」
あと1週間すれば凛の世話から開放される。
徹朗はゆらから呼び出された
「凛ちゃん、お母さんが今どこで何をしてるのか、知りたがってます」
凛がひっきりなしに連絡しているらしい。
「わかりました。俺から凛に話しますから」。
その夜、徹朗は一緒に宅配ピザをほおばりながらきりだした。
「パリにいるんだ。そこで美術の勉強をしてる」
一呼吸おくと、徹朗は真顔で凛を見つめた。
「もうお母さんは帰ってこないんだ。お父さんとお母さん、離婚したんだ。ごめんな」
凛は無言でうなずいた。2人は黙々とピザを食べつづけた。
徹朗は父親の義朗(大杉漣)にも離婚を伝えるために実家をたずねた。やもめ暮らしの長い義朗は家事をうまくこなしていた。
「父さん、浮気してただろ」
「当たり前だろ。最近じゃ、女房から離婚をきりだされる情けない男もいるみたいだが」
これではとても打ち明けられない。徹朗は押し入れの中から、小学1年生のときに書いた作文を探しだした。
「あの頃、何考えてたのかなあと思って」
「暇だな、お前」
義朗は呆れたように言った。帰宅すると美奈子が来ていた。義朗に離婚を言いそびれたと打ち明けると、美奈子は徹朗に頭を下げた。
「離婚はしかたないわ。でも母親が子供を手放すなんて、しちゃいけないことよ。可奈子の母親として私にも責任があるわ」
しきりにわびる美奈子に徹朗は戸惑いを感じていた。
「凛ちゃんを引き取ったら母親代わりになれるよう、一生懸命やります」
その夜、徹朗は実家から持ち帰った作文を読んで、思わずつぶやいた。
「ホントに俺が書いたのかよ」
翌朝、徹朗は凛のふくハーモニカの音で目覚めた。
「いよいよ音楽会だな。がんばれよ」
「はい、がんばります」
たったそれだけのやりとりだったが、2人の間にはこれまでとは違った空気が生まれた。いよいよ音楽会本番。
「この音楽会が凛さんとみんなの最後の思い出になるでしょう」
担任の石田(浅野和之)に紹介されて凛は緊張した。おかげで演奏を間違ってしまった。凛はハーモニカを握ったまま涙ぐんでいた。
ゆらは勝亦(大森南朋)から2人きりの食事に誘われた。
「ゆらのことが好きなんだ」
どおりで亜希(田村たがめ)がいてはまずいわけだ。これまで勝亦のことは友達としてか見てこなかったから、ゆらは返事に窮した。
「とりあえず、食べていい?」
真剣な勝亦におかまいなく、ゆらは目の前のオムライスにパクついた。
徹朗が帰宅すると、凛はしょんぼりとソファに座っていた。
「どうかしたのか?」
急に泣きだした凛に徹朗はうろたえた。しかし気づくとぎこちない手つきで凛を抱きしめていた。
実家から持ち帰った作文の中に、こんな一文があったことを思い出したからだ。手は悲しんでいる人を抱きしめるためにあるのだと。
凛と同じ小学1年生のとき、徹朗はそんな気持ちをもった少年だったのだ。徹朗の腕の中で凛はじっとしたまま動かなかった。
週末の朝、室内にはダンボール箱が積みあげられた。
「できた」
「ありがとうございます」
凛の引っ越しの準備が終わった。明日になれば美奈子が迎えにきてくれる。2人一緒にすごすのは今日で最後。
「どこか行くか?」
2人は動物園に出かけた…。
引用:番組HPより