【僕と彼女と彼女の生きる道】再放送・第6話
#6 娘との旅
徹朗(草なぎ剛)は来月いっぱいで退職したいと井上部長(小日向文世)に伝えた。
「家の近くの信用金庫でお世話になるつもりです」
残業はないが、給料は半分になる。
「おまえがその程度のヤツだと見抜けなかった自分にムカつく」
今度の社内人事で井上は常務への昇進がウワサされている。子飼いの部下の突然の退職は影響をおよぼすかもしれない。しかし井上の口から慰留の言葉はでなかった。
凛(美山加恋)の不登校は続いていた。ある夜、担任の石田(浅野和之)が突然たずねてきた。
「先生が来てくださったぞ」
しかし凛は逃げるように、勉強を教えてくれていたゆら(小雪)と自分の部屋にひきこもった。
石田はなくなった凛のクツと下敷きを差しだした。凛を困らせたくて同級生の女の子が隠していたという。
「申し訳ありませんでした」
そして石田は授業でつかったプリントの束を徹朗に手渡した。
「教師になりたての頃は、こんなにためなかったのに」
それまで事務口調だった石田が、その瞬間だけは本音をのぞかせたように徹朗には感じられた。
これで明日から登校してくれるはず。そんな徹朗の期待はあっさり裏切られた。
「行きたくないです」
凛ははっきりと言った。石田に対する不信感は消えてなかった。
「本気かよ」
宮林(東幹久)はマンションにまで押しかけてくると、徹朗に退職の真意を問いつめた。
「なんでそんなにさっぱりしてるんだよ」
宮林には徹朗の平静ぶりが信じられなかった。かたや徹朗には他人のことなど関心ないと思ってきた宮林が、まるで自分のことのように興奮しているのが不思議に見えた。
義朗(大杉漣)が足を骨折して入院した。
「かえってよかったかも」
美奈子(長山藍子)が思わずそうもらしたのには理由があった。義朗は趣味がなく、近所づきあいもない。定年退職したのに、自由な時間をもてあましていたからだ。入院していれば暇つぶしにはなる。
「遅くまでは無理ですから」
宮林から声をかけられて、徹朗は気のりしないまま合コンに参加した。退職を間近にひかえた徹朗に関心をしめす女の子はいなかったが、徹朗にはむしろ好都合だった。
「俺、急ぐんで」
凛の待つ自宅へ急いだ。
その夜、子供部屋から泣き声がもれてきた。
「お母さん」
寝ぼけた凛は泣きながら徹朗にしがみついた。
「大丈夫だから」
いまの徹朗はしっかりと抱きしめることしかできない。数日後、徹朗はゆらに銀行を辞めることを伝えた。
「驚いた?」
「はい。でも間違ってないと思います」
徹朗はその一言が聞きたかったのだ。
「よかった」
徹朗はホッとしたように微笑んだ。
日曜日、徹朗は凛と遠出した。凛の気分転換になればとゆらが勧めてくれたのだ。一面の雪景色のなか、2人は大きな雪だるまを作った。
「学校、どうするんだ? お父さん、銀行辞めることにしたんだ。今までとは違う生きかたをしたいんだ」
凛は何も言わない。徹朗はきっぱりと言った。
「凛ともっと一緒にいたいんだ」
2人は歓声をあげて雪合戦をした。「ヤッター!」「やったなあ」。徹朗は願った。
凛は母親のいない寂しさをずっと抱えていく。だからこそ父親には愛されていると感じてほしいと。
「学校、行くのか?」
やっと凛がその気になってくれた。しかし校門の前に石田がいるのに気づいた途端、凛は動けなくなってしまった—。
引用:番組HPより